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Prayer-13-

綺麗な人達


綺麗な言葉達




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携帯を切り、頭を一つ振る。

あの部屋の目覚ましをセットした時間より少し早く起き
その時間が来るまで眠気ざましに珍しくもコーヒーを飲んだ。
窓を開け、朝の空気を肺一杯に吸い込む。

昨日までの自分とは少し違うような気がする。
鉛のように重かった体が軽い。
連日続いていた頭痛も収まっていた。

冷蔵庫からコンビニで揃えた食材を出し、簡単な二人分のお弁当を作る。
しかし今だ眠気だけは収まる様子が無い。
まだ大分早いがそうそうに支度をして学校へと行くことにする。
このままこの部屋に居たのでは二度寝はするなと言った
自分の方こそ、そうしてしまいそうだったから。


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「結城はん?」

それは確かに彼女で、声を掛けた途端慌てたようにこちらに顔を向ける。
随分早く寮を出たというのに、こんな時間に高等部の入り口で何をしているのだろう。

「ふ、藤乃っ!」

今までみたことも無いような表情で視線をあちこちへと移す。

「なんや、えらい早い時間に登校してはるんやね。」
「そそそ、そうなのよ。見習いながらシスターともなると――――」

はっとしたようにそこで言葉が切られ、その表情に青みがかかる。
彼女のその表情の変化の連続に小首をかしげる。

「どないし」
「あんた・・その格好。」

そう言われて気付く。
自分が今どんな格好をしているかを。
いつもの生徒会長専用のブレザーの下に黒のタートルネックを着込んでいた。
残る痣を隠す為に。でも痣を隠す為だなんて彼女は知るはずも無い。

「そないにこの格好、変やろか?」

相手を落ち着かせるようにゆっくりと話かける。だが、
ますます青褪めていくその顔色に流石に心配になる。


「結城はん?」


その途端。

流れる一筋の滴。


「ゆ、結城はん!どないしたん。何で泣いてはるん?!」

素早くその肩に手を置きその顔を覗く。
止めどなく溢れる涙。

「何かあったん?お母はんに何かあったん?」

心臓が跳ねる。


「ふじ・・・・の、嫌・・・・」


その言葉に自分の体が反応した。掛けた両手を離し一歩後ずさる。
そうだ、この子は自分を酷く憎んでいる。多分その手で殺したい程に。
泣きたくなった。どうして今、目の前にいるのが自分なのかと。
彼女を優しく抱き締めてやれる誰かではないかいのかと。
やりきれずどうしようかと迷っていた時、


抱きつかれた。


「ふじ・・・だ・・・め。駄目。」

埋められた肩口からくぐもるように途切れ途切れに聞える声。
何がなんだか解らない。何が嫌なのか。何が駄目なのか。


「いき・・・て。おね・・・が」


胸の中で泣きじゃくり途切れ途切れに紡がれる言葉。




藤乃、嫌。駄目。生きて。お願い。



あまりに予想だにしていなかったことに吃驚する。

そこでやっと思い出す。
教会で会ったこと。
昨日ぼんやりとこの子のことを考えたこと。
多分それは間違えでは無く、
勘の鋭く、気付かなければいいところに気付く。


だからきっと勘違いしている。


「結城はん。違うんよ、これは喉笛を自分で切り裂いたとかや
 ないんよ?流石にそないなことしたら学校へは来れませんぇ?」

ただ締められただけだなどとは口が裂けても言えないが。


途端、体にまかれた腕から力が抜ける。
きっと今彼女の頭の中ではぐるぐると色んなことが駆け巡っていることだろう。

その赤い髪を一つ撫でる。よくよく見ると彼女はとても小さい。
本当はこんなにも幼かったのかと、今更ながら思う。

「心配してくれはったんやね。」

瞬間まるで猫のような素早さで後ろに退いた。

「ばっっっかじゃない?!」

顔を真っ赤に両目も真っ赤に。何から何まで真っ赤にして
睨まれる。

「誰があんたの心配なんかすんのよ!!自惚れんじゃないわよ!!
 ただあのヘタレが間に合わなかったかって!!」

自分が今何を言っているのかもわからないのだろう。
知らずに緩んでしまう顔。

「って、これは、つ、つまりドッキリよ!?ドッキリ!?わかった?!」

いつもとは違うその年相応の態度と表情。

「えぇ、ようわかりました。ウチも吃驚しましたし、
 ドッキリ成功どすなぁ。」
「っ・・・」

ほんとうは誰よりも優しいくせに不器用で損をするタイプ。
確かに二人は似ているのかもしれない。

「赦してもらおうなんて思ぉてへん。ウチは恨まれて当然なこと
 結城はんにしてしもうたしな。せやけど言わせておくれやす。
 もう二度と結城はんには関わらんさかいにな。」

今度は彼女が小首を傾げた。


「堪忍な。そしておおきに。」


深く頭を下げた。

どうして自分のことを気にかけてくれたのかは今も疑問に感じる。
どうして憎んで病まない自分の為に泣いてくれたのか。

でもこのままではバツが悪いだろうとその場を去ろうとした。
あの時と同じようにその横をすり抜けて。

すれ違う寸前で腕を掴まれた。


「あんたやっぱり馬鹿じゃない?」
「え?」

教会で会った時と同様その表情は覗けない。

「何で自分一人だけが悪かったんだって思うの?
 私だってあの時、あんたのこと殺そうとしたんだよ?
 人質まで取って。色んな人を傷付けようとしたんだよ?
 私の方がよっぽど悪人ちっくじゃない?」
「違いま」
「違わない。あんただけが悪いわけじゃない。」


時が止まる。


「まぁそれに気付いたのはあんたの姿教会で見た時だけどね。
 自分を責めるより、相手を憎んだ方が楽だったしね。」

まるで軽ぐちを叩くように言うがそれはとても自虐的に聞えた。

掴まれた腕に力が込められ引っ張られる。
対峙したその顔はいつもより若干幼く、儚げに見えた。


「私はもうあんたのこと恨んでないから。だから・・・」


最後までは言わない。
でも察してくれと、伝わる。



だから



今度は自分がその細い体を引き寄せる。
一つ抱きしめ、すぐに離し今度こそ前に歩を進める。


ダカラ


結城はんもな、



生キテ



言葉では紡げなかった。


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休み時間ともなれば、入れ替わり立ち代り教室の外を行き交う生徒達。
クラスメートからも朝から質問攻めだ。

机に座ったまま額に手を当て、はぁ~と溜息をつく。
自分は確かにこの風華では有名なのだとつくづく、否
うんざりと思い出させられる。

少し違った格好をしただけでこの有様。
大体何故こんなに自分に人が群がるのか昔から不思議ではあった。
まぁ大抵は女の子なのではあるが。
無意識にそれとも意識的にそれ独特のオーラを放っているのだろうか?

折角今朝、素敵な出来事があったのに。
これでは余韻に浸るどころでは無い。


「貴方たち!速やかに各自の教室の戻りなさい!!」

聞きなれた怒号に、はぁ~ともう一度溜息が漏れる。


その怒号の主は肩をいからしずかずかと教室に侵入してくる。

「藤乃会長!生徒会長自ら風紀を守らず乱れた制服を身に纏うなどとは
 前後横断!」
「『言語道断』だよ遥ちゃん。」

びしりと人差し指を向けさもしてやったりと上から見下される。

「鳥にも門にも執行部室へとお願いします。このままではこの教室
 いえ、学園中の治安にも影響してしまいますので。」
「『兎にも角にも』だよ遥ちゃん。」

気のせいかいつにも増して気合の入っている執行部長を前に、
今日三度目の溜息を吐いた。

よもや自分があの部屋で説教をされる日が来るとは夢にも
思わなかった。


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「堪忍な。シャツ、間違えて全部洗濯してしまったんよ。」

自分のその言葉に、目の前の人物は机に踏ん反り返った格好のままで固まった。
言い訳があまりに無理があったかと思ったその時、
つんざく様な高笑いが執行部室中へと響く。


「天下の生徒会長様がシャツを間違えて全部洗濯?雪之!こんな
 可笑しなことは今までの私の人生の中では一番のビックリ笑点なニュースよ!」
「『ビックリ仰天』だよ遥ちゃん。」

尚も笑い続ける執行部部長。珠洲城遥。
それに相反して複雑な表情を浮かべる菊川雪之。

ともに自分が消して、壊した人達。
だから向けられる全ての言葉を受け止める。
それで少しでも気が済むのなら。
いくらでも毒のある言葉を吐いて欲しい。

暫くして響いていた笑い声が止み、その顔が珍しくも真顔になった。


「だったらシャツが乾くまで、大人しくしていて下さい。」
「え?」
「もう今日は結構です。その姿では他の生徒に示しが付きません。
 速やかに下校して下さい。」


そう、つまり顔すら見たくないと。


覚悟はしていたが予想以上にズキリと胸にその言葉は響いた。
思ってた以上に目の前の人物は自分にとって、
けして軽い存在では無かったのだと気付く。

いつでも真正面から向き合い臆することなく挑んで来たのは
彼女だけだ。最後の最後まで。



後悔



初めてよぎる言葉。
あまりにも大切な一人に固執しすぎて周りなど気にしていられなかった。
今なら解る。昨日と今朝の情景を思い出しながら想う。



自分を取り巻く世界は、本当はとてもとても



綺麗 ダッタンダ



もう、全てを取り戻すことは出来ないけれど。


「堪忍な。そうしたいのも山々やけど、仕事も仰山残っとるし、
 この格好かて校則違反ではないし、そうゆうことやから残らせてもらいますぇ?」
「なっ」

背中を向けて歩き出した。
歪んで罵倒するであろうその顔も言葉も見たくなかった。
先程までは全て甘受すると思っていたのに。なのに。


勝手で堪忍な。


もう一切二人には関わらないから。


ココロの中でそう誓い歩みを進める。



「『少しは休みなさいよ。少しは頼りにしなさいよ。
  あのぶぶ漬け女』だったよね?遥ちゃん。」



がたりと大きな音が響く。

「ゆ、雪之?」
「だよね?遥ちゃん。」
「ゆゆゆゆゆゆゆ雪之?」


背には突き刺さるような視線を感じる。


「すいません会長さん。毎日毎日、耳にタコが出来る位聞かされるんです。
 会長はこの頃働き過ぎだとか、お昼取ってる暇なんかあるのかとか、
 寮には帰っていないって聞いて、保健室で寝てるんだろうかとか、
 目が虚ろだとか、倒れるんじゃないかとか、
 自分が一時消されたことなんて、てんで憶えてないんです。
 そんなことは忘れちゃってるんです。頭突きまでしたくせに、
 ずっと心配してるんですよ?藤乃会長のこと。」
「雪之!!」


二人の負担を考えて、ここでいつものようににこやかに一つ笑い。
気の利いた言葉を一つ告げ颯爽と去ればいい。
心配なんてしなくていい。
藤乃静留は何があっても藤乃静留だって。

生き返ったあの時、おちゃらけて見せたあの時の様に。


くるりと軽やかに半回転する。


「なんや珠洲城はん、ウチのことそないに」
「藤乃会長。」


遮られる。


真顔で凛とした表情で見据えられる。


「遥ちゃんは、貴方にとってどんな存在なんですか?」



もう良い。

本当のことを言って良い。


それが安堵と共に言葉として流れる。




「ウチの勝手な想いやけど珠洲城はんは」


今この時を、この二人はどんな気持ちで聞いているんだろうか。



「頼りになる『友達』。」



そう告げたら動くことが出来た。笑うことが出来た。
背中に羽が生えたみたいに軽くなった。


二人に背を向け歩き出す。


後ろでは誰かが倒れる大きな音がしたが



振りかえらなかった。




 



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